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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)1113号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について。

論旨は要するに、被告人等の行使した本件偽造の文書(外国人登録証明書)は公務員の作るべき文書であることからして刑法一五八条一項(一五五条一項)により処罰されたが、もしそれが私文書であるとすれば同一六一条一項(一五九条一項)により処罰さるべきものであり、両者の法定刑に軽重の差別がある。これは公務員の作るべき文書の偽造とその行使を私人の作るべき文書のそれより重く処罰するもの、即ち身分により差別するものであるから、右一五八条一項の規定は憲法一四条に違反し無効である、従って被告人等の本件所為に対し右条項を適用処断した原判決は違憲であるというにある。しかし、刑法一五八条一項の保護法益は公文書の信用性に存するのであって、公文書の信用度は私文書のそれに比して高いのであるから、同条項の偽造公文書行使罪の法定刑は、同一六一条一項の偽造私文書行使罪の法定刑より重くても、それは保護法益による法定刑の差別であって、所論の如く身分による差別ではない。従って所論違憲の主張はその前提において失当であり、上告適法の理由とならない。(昭和二五年(あ)第二九二号、同年一〇月一一日大法廷判決、刑集四巻一〇号二〇三七頁。昭和三一年(あ)第二三六号、同三三年五月三〇日第二小法廷判決、刑集一二巻八号一九一四頁参照)

同第二点並びに被告人両名の弁護人権逸の上告理由について。

論旨はいずれも量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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